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神主の私が申し上げるのも何ですが日本の伝統や文化は何も古い神社やお寺にだけ残っているのではありません。我々の社会、そして我々一人ひとりの生活や考え方の中に知らずしらず継承されているものであり、目に見える神社や祭り等はその目に見えない伝統が形を持って現れたもの、とも考えられるのではないでしょうか。神社においては毎年同じように祭礼が繰り返されていますが、古い時代からすたれず連綿と継承されているのは、化石を眺めるような断絶ではなく、今に生きる人々の心の中に息づく伝統的なものが祭と共鳴しあって今もなお価値を持っているからだと思います。
この本では日本の老舗企業、特に製造業に焦点を当てて紹介をされています。「最先端の技術の中に、伝統の心が活かされている」「何故日本には老舗企業が多いのか」というテーマは一つの日本文化論になっており、単なる先端技術紹介にとどまらず示唆的です。私のような神主の立場からは何か自分たちだけが伝統文化の担い手であるように思ってしまいがちですが、神社と対極にあるような企業の中にも下手をすればそこいらの神社よりよほど古い歴史があり、それぞれの立場で伝統を現代に活かそうとされていることを知ったのは驚きであり、また喜びでもありました。
それと同時に、本書で紹介されている各老舗企業を支える人たちの言葉は我々神主にとっても非常に参考となる部分があり、「伝統をいかに次代へ伝えていくか」「生き残るために伝統とどう折り合いをつけるか」など、色々考える材料を与えてくれます。
難しい技術用語を文系的に噛み砕き、ちょっとした「トリビア」を織り交ぜながら対象に迫る語り口には好感が持てました。